久米島紬の製造工程は、年間を通して季節と農業と関係が深く、農繁期の合間を利用し4月から6月は養蚕と糸取り(春蚕)、6月から8月は図案作成と絣括り等、9月から11月は染色、12月から3月の寒い時期は製織などのサイクルで行われています。
染色の時期は染色条件のいい9月から始まります。それは湿度が低く糸の乾燥が早いし、また泥染めに入る11月頃は日差しもやわらぎ、糸を直射日光から守り、堅ろう度もこの時期の染色がもっとも良いといわれています。したがって、この時期になるとどの家庭でも早朝から作業を始め、夜遅くまで短期間で一年分の糸を集中的に染色する風景が見られます。逆に雨期や真夏の暑い時期は、糸が蒸れて弱りやすく、特に染色に長期間を要する場合など絣糸の括り部分が切れる可能性が大きいので染色の作業を避けています。
久米島紬の染色は、島に自生する植物染料のみを用いて行われるのが特徴です。泥での媒染やユウナの炭で染めるグズミ、それからヤマモモとナカハラクロキ染皮の2種の染皮を同時に煎じる特殊な染色方法等が一般的に知られています。
また染色を何度も繰り返すため煮染法より、浸漬染法が多いのも特色の一つです。基本色は、黒褐色(煤竹色)、赤茶色、灰色(銀鼠色)、黄色、鶯色等があります。
糊付けの工程で糸繰りがらくにできるようにと糊付けされた地糸と絣括りを終えた糸は、染色する前に丁寧に糊落としをします。ぬるま湯に入れて2~3回水をかえ染色にむらができないように糊を落とすことが染色にはかかせない大切な前工程の一つです。
●泥染め(黒褐色)
山に自生しているグール(サルトリイバラ)の根を細かく割ってチップ状にし、2~3時間程煎じた液を容器に移し、一釜3回まで煎じ染浴とします。
染色を行う前に糸に付いている糊や汚れを落とし、熱い染液で30分程浸漬染めを行い日当たりの良い場所で竿に干します。日のあたる位置を均一にするためにたえず綛糸の内側と外側の位置を変え、むら染めにならないよう配慮して干します。
1日に染色を4~5回ほど繰り返し、夕刻になると染材を煎じる釜の上で糸を虫発色を高めるこの作業を10日程行います。グール染めの場合、赤茶色のきれいな絣足のにじみを得るために、糸を完全に乾燥させた後に、熱い染液で浸し、漬け染を行うことが重要です。
さらに濃色の濃い焦茶色を得るためにテカチ(シャリンバイ)を染め重ねます。テカチの幹を煎じ易くするのに15センチ程度に割切り、さらに斧で割り細分化した染材を、昼中(朝6時~夕方7時)煎じて得た液に浸し冷染を行います。グールと同様日に6~7回の14日程度行います。
テカチ染で気を付けなければいけない点は、糸が完全に乾燥しない8分乾きの状態で浸し染めを繰り返すこと、乾燥させるとせっかくグールで得た赤茶色の絣足に、茶色が浸透し濁った感じで汚染される可能性が大きいからです。
次に鉄分を多く含有する池の、粒子の細かい泥を用いて媒染にはいります。泥を水で染め粗目の網で小石などの異物をこし、焦茶色に染まった糸を泥浴の中でまんべんなく繰り泥がついたらきれいな場所に糸を干します。
約1時間後糸の上側と下側になった位置を変え、さらに1時間経過後、水洗いして泥を落とします。この工程を数回行い、目的の黒褐色を得るまでテカチ染めと泥媒染を繰り返し行います。最後の泥染め後の水洗は、品質に影響するので充分に洗い鉄分を除くまで行います。
●ユウナ染(灰色)
ユウナ染めは、ユウナ(オオハマボウ)の幹を約15センチ~20センチに輪切りにし、焼いて木炭化させます。その木炭をさらに石臼で粉末化した後水に溶かし豆汁を入れ、目の細かい布でろ過し染液とします(表2参照)。粒子が細かければ細かいほど染着力がよくなり水洗いがらくに行えます。
染め方は、常温液の中で絶えず糸を繰りまんべんなく染液を浸透させ、むらがでないように心がけ染色します。次に水洗い、乾燥を繰り返し1日5回行いこの工程を8日程度繰り返し、最後にミョウバンで媒染を行い銀鼠の灰色を得ます。
●ヤマモモ・クルボー染(黄色)
黄色の染色をヤマモモの幹の皮とクルボー(ナカハラクロキ)の幹の皮を2:1の割合でこの2種類の染料を同時に煎じて染液とします。発色済もミョウバン媒染で赤味をおびた深みの黄色が、泥による鉄媒染でうぐいす色が得られます。
●その他の植物染料
久米島は多くの染料に恵まれています。近年上記染料・染色の他にシイの木、ゲッキツ等の染料も用いられ、古い資料に見られる多色づかいを参考に、久米島紬の多様化を図っています。